『薔薇のパルファム』

今年読んだ本のなかで、とりわけ読み応えのあった一冊が、『薔薇のパルファム』蓬田勝之(求龍堂)でした。
もう「今年」なんて総括した言い方をしてもいい頃ですよね。

本のタイトルどおり、バラの香りに関する本です。
が、「バラの香りってちょ~~好き~♪」というノリでは読めるものではありませんね。

一人の研究者の人生をかけた研究成果をまとめた本、半生がつまっていると言ってもいいでしょう。
そのくらいの重みのある本です。

私にとっては珍しく、ページを行っては戻りつつ、3カ月は読んでいました。

筆者はバラにまつわるどれだけの資料にあたったのでしょうか。
バラの誕生つまり古代史や神話から、バラの歴史、西洋美術、バラの香りの成分分析など、言及されているテーマの広さにまず驚きました。

筆者は資生堂の研究室に籍を置いて香りの研究をしていた方なので、バラの香りの抽出方法、香りの成分分析については、データも載せながら詳しく書かれています。
科学にうとい私ではその内容を理解することができないのが残念ですが、そのボリュームと行間から溢れる熱意に圧倒されました。

‘芳純’から見つけた新香気成分

芳純バラの香りを研究するなかで、筆者はミスターローズと呼ばれる故・鈴木省三氏と交流を持つことになったいきさつにも触れられています。
私がわかって感情移入できるのがこの辺りですね。
筆者は研究室を飛び出して、バラ園にも足しげく通い、バラを育てることになったそうです。
鈴木氏から連絡を受けて早朝のバラ園に飛んで行き、開きたてのもっとも香りが良い状態のバラから香りを抽出して、研究室に戻ることを繰り返していたと。
(早朝が一番香り立つそうです。それだけに巻頭写真は一番フレッシュな香りが立つ状態のバラを集めて欲しかった)

鈴木氏と言えば、数ある作出バラのなかでも‘芳純’が取り上げられることも少なくありませんね。
筆者の研究によって、‘芳純’には世界で始めて確認された新しい香り成分「ティーローズエレメント」が含まれることがわかったそうです。
このティーローズエレメントの発見は、資生堂「ばら園」シリーズの誕生につながっていくんですね。
資生堂「ばら園」は、人工的なバラの香料なのに好きかも♪と初めて思えた商品なので、ちょっと感慨深いものがあります。

バラが宇宙へ行ってわかったこと

オーバーナイトセンセーションスペースシャトルにバラを乗せて香りの実験をしたのは知っていましたし、そのバラが‘オーバーナイトセンセーション'であることも知っています。
でも、その実験の結果は知りませんでした(やーねー^^;)。
宇宙では地上とは香りの感じ方が違うそうです。

なぜなら、香りには重さがあるから。分子量の小さい(つまり軽い)ものから徐々に出て、重い香りは後から出てくる。それはどうも重力と関係があるらしい。無重力状態では、軽いものも重いものも同時に出て、しかも拡散しない。水が垂れずに球になるのと同じ理屈らしい。拡散しないので濃縮された特有の香りになるらしい。
--というようなことが書いてあります。
もーね、理由はわからないけど、胸がパクパクしました。
私にとっては、とてもエキサイティングな内容でした!
この本のなかではおまけのエピソードみたいな部分なんですけどね。


本のメインテーマである香りのメカニズムが簡単には頭に入ってこないので、何度も何度も本を開いて読み返しました。
で、頭に入ったかって?
まさかー。素人がそんなに簡単にわかるものじゃないですって。
なのに、エキサイティングなのっ。
この辺が私のヘンなとこ。

あとがきを読むと、筆者の肩書きは「パフューマリー・ケミスト」となってます。
ご自身で作った言葉なんですって。
ケミカルな立場からここまで香りの研究をし続けた人をうまく表現した言葉ですね。
うんうんとうなづいて納得ができたのでした。


薔薇のパルファム薔薇のパルファム
蓬田 勝之

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この記事へのコメント

2007年12月09日 00:50
本屋さんで姿を見かけた記憶はある!
でも、手に取ってみたりはしなかったやつだ!

全然違う内容をイメージしてました。
こういうのだって知ってたら...!!
表紙は大事だなあ...(と、表紙のせいにしてみたりして...)
もも@管理人
2007年12月09日 01:12
◆Hirokazuさん
表紙のイメージだとほわほわとしていて、香水のロマンとか、情緒的な文章がイメージされる感じ?

中身はがっつりとサイエンスですよ。
きわめて男性的な(男性が書いているんだから当たり前?^^)文章だし、分子レベルの話ですからね。
たぶんユーモアも交えて書いたと思われるジャスミンの香りVSバラの香りの項だって……あとは読んでのお楽しみってことで♪

男性にこそオススメの書籍かもしれません。

私は現代に生まれることができて、昔の女王様よりずーっと幸せなんだなーと思いました。(o^-^o)♪
バラの香りを手軽に楽しめるという意味でもそうですし、私の好きな香り(それから四季咲きのバラを楽しめること)はチャイナローズが交配されてから生まれたものであること、毎日楽しんでいるミニバラも日本や中国のバラが元になってるってことを考えても、ね。

幸せな小市民で嬉しいなー、なんて思っちゃいました。
2007年12月09日 22:50
ももさんのおっしゃるように重みのある内容みたいですね。
とっても奥深い内容なんだろうな~って。
でも宇宙で嗅ぐ香りと地上で嗅ぐ香りが違うっていうのにはわたしも
ちょっとドキドキしちゃいました♪
でも「パフューマリー・ケミスト」って肩書き、とても素敵。
もも@管理人
2007年12月10日 00:01
◆nayamomさん
うーん、おかしい。nayamomさんからのコメントがカウントされてるのに表示されてないんです(うちだけ?)。
管理画面から読むことはできました。
このコメントを入れた後表示されればいいな…。

この本の著者はたまに雑誌でも原稿を載せてらっしゃいます。
難しい話なんだけど、一般には知られていないことが詰まっているので、楽しいんです。
…楽しいというと御幣があるのよねー。興味深いというと、私が上からモノを言ってるみたいで、なんかそぐわないし。
まぁ、そんな感じってことで。

宇宙でしかかげない香りって、ロマンを感じますよねー。

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